1 『デジタルフォレンジック』
デジタルフォレンジックに関連した話となりますが、今回は少し切り口を変えて、そもそもこのデジタルフォレンジックによって収集された証拠が、法的な紛争問題、訴訟においてどのような位置付けでその解決に資するものとして利用されるかという観点からのお話をしたいと思います。
ちなみに、近時第三者委員会の調査でも話題のデジタルフォレンジックとは、「インシデントレスポンスや法的紛争・訴訟に際し、電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うとともに、電磁的記録の改ざん・毀損等についての分析・情報収集等を行う一連の科学的調査手法・技術」(注1)などと定義されます。
注1 特定非営利活動法人デジタルフォレンジック研究会WEBサイトhttps://digitalforensic.jp/home/what-df/
その他詳しい『デジタルフォレンジック』についてはこちらの記事をどうぞ

2 法廷では何が争われているか?
みなさんは、法的な紛争(訴訟やその前段階としての紛争交渉等において)では、何が争われていると思われますか?
法廷では六本全書を傍らに置きつつ条文を引いて、「◯条の◯項にこう書いてあるではないですか」というように、法律の適用・あてはめや法律の解釈の主張をしているようなイメージがあるかもしれません。
しかしながら、実は、法的な紛争で争われているのは、そのような法律の適用・あてはめ、法律解釈上の争いでないことがほとんどなのです。
結論から言えば、法的な紛争においては、その多くが、事実の存否、すなわち、「ある事実があったのか、なかったのか」という点こそが大きく争われていると言えるでしょう。
分かりやすく説明するために、例えば、売買契約を考えてみましょう。
① Aというものを100万円で売ると約束した【事実の存否】
② ①の事実があった場合、法的に売り主及び買い主にどのような請求権が発生するか【法適用・解釈】
この例でも明らかなように、売買契約に関して仮に紛争が発生するとすれば、あるものを「10万円で売ると言ったのか、100万円で売ると言ったのか」、あるいは、「Aというものを売ると言ったのか、Bというものを売ると言ったのか」、という事実の存否に関する争いとなります。
売買契約について、事実の存否に争いがなければ、②の法適用・法解釈の部分で争いが発生することがないであろうことはご理解頂けると思います。
すなわち、売買契約が締結されれば、買い主には目的物引渡請求権が発生し、売り主には代金支払請求権が発生するのは明らかであり、この点について争う当事者や代理人はいないことでしょう。
3 『デジタルフォレンジック』で得た証拠は事実の存否の証明に!
デジタルフォレンジックにより収集した証拠は、特定の事実の存否の証明に資するものであり、それはすなわち、先述のとおりまさに多くの法的紛争において中心的に争われている事実の存否の立証に資するということになります。
しかも、人の証言による立証等に比べて客観性がある証拠といえ、その意味で証拠としての価値も高く、デジタルフォレンジックの重要性がご理解頂けるところだと思います。
ところで、この法的紛争で中心的に争われる事実の存否の立証方法は、技術の進歩や社会状況等により次々と新たな方法での立証が検討され、創造されていくこととなります。
デジタルフォレンジックによる事実の存否の立証は、かつては存在しなかった新たな立証方法と言えるわけですが、今後も時代とともに新たな立証方法が発生してくるものと考えられます。
従って、法律家もかつての経験に基づく立証方法のみならず、常に新たな方法での立証について模索・研究していく必要があるところです。
デジタルフォレンジック、及びデジタルフォレンジックにより収集された証拠が、法的な紛争においてどのような位置付けをされるものであるかということ、現代社会において法的な紛争の解決に重要な位置を占めているということのお話でした。
※本稿は、私見が含まれ、また、実際の取引・具体的案件などに対する助言を目的とするものではありません。実際の取引・具体的案件の実行などに際しては、必ず個別具体的事情を基に専門家への相談などを行う必要がある点にはご注意ください。




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