社内不正調査等における会社管理メールの調査の法的問題

 

目次

社内不正調査等の必要性

 社内不正調査、情報漏洩調査、セクハラ・パワハラなどの労務問題の調査などにおいて、それら問題に対する適切な対処、証拠の収集のために、従業員の業務用メール(注)の調査の必要性が発生することは少なくありません。

 そのような際、特に従業員が業務用メールを用いて私用メールを送信していて、それらの私用メールも含めて調査の対象となる場合には、これについて当該従業員の同意なく調査を行うことは、当該従業員のプライバシー権との関係で問題が発生するのではないかという点が問題となります。

 なお、対象のメールについて削除がなされていた場合にこれを復元する等の調査が必要となる場合には、デジタルフォレンジックという調査手法による調査が検討されます。
 デジタルフォレンジックについては以下の記事をご参照ください

(注)ここでは、従業員に貸与している会社所有のパソコン、スマートフォンなどのデジタル機器により使用する、会社が割り当てた業務用メールを想定しています。

業務用メールの私的使用の可否

 そもそも、会社の業務用メールを用いて私用メール送信を行うことについて、労働契約上の職務専念義務との関係で問題がないかという点も検討の必要があると考えられます。

 この点については、次のような裁判例が参考となります。

東京地方裁判所平成15年9月22日判決
「労働者は、労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが、労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく、就業規則等に特段の定めがない限り、職務遂行の支障とならず、使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。」

 判決日が平成15(2003)年と、特に発展のスピードが非常に早く現在と状況が相当異なり得るIT関連分野においては古い裁判例とも思われますが、「労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく」などの部分は現状も変わらないところと考えられます。ただ、就業時間中の外部との連絡については、以下にも述べるとおり、当時より個人所有のデジタルデバイスが発達した現在において、業務用メールの私的使用を許す必要性があるかは別途問題とはなり得るところでしょう。

 「就業規則等に特段の定めがない限り」との点は、「就業時間中の私用メールを禁止する旨の規則や命令は存せず」との本判決の前提的認定を受けての判断と考えられますが、裏を返せば、就業規則において業務用メールでの私用メールの禁止などを規定することが許される可能性もあるというところでしょうか。

 現在においては、上記判決平成15年当時とは、一般人のデジタルデバイスの使用状況も大きく変化しており、スマートフォンの普及などにより、業務用メールの私的使用を禁止したところで、「労働者といえども個人として社会生活を送っている以上、就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく」という点への配慮に大きく欠けるとまでは思われず、この観点からの業務用メールの私的使用を認める必要性は低くなっているとも思われます。

 特に、情報漏洩に関するコンプライアンスとの関係においても、業務用メールでの私用メールの送信について、これを規則で制限することにも一定の合理性が存在するとも思われます。

 時代の状況に応じて、各権利との調整に関する利益衡量の要素・程度も異なり得るものと考えられます。

会社の管理する業務用メールの調査の可否

 上記のとおり、業務用メールの私的使用が許容される可能性(また会社側の許諾の有無にかかわらず事実上の私的利用が発生する場合)があるとして、その業務用メール(私用メールを含む)について、一定の場合に当該メールを送受信した従業員の同意なく会社がこれを調査することができるかが次に問題となります。

 背任行為、情報漏洩、セクハラ・パワハラなどの調査において、ときに会社としてはメール内容の調査を行う必要性がある一方で、業務用メールを用いた私用メールが許される可能性もある以上、該当従業員のプライバシー権との関係で問題となるところです。
 この点については、

東京地方裁判所平成13年12月3日判決、労働判例826号76頁
「従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は、通常の電話装置における場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり、……………監視の目的,手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。」

といった裁判例が参考となります。
 監視を受ける側の不利益と監視目的、手段・態様などを比較衡量し、社会通念上相当な範囲を逸脱した場合に限りプライバシー権の侵害と判断するもので、その許容性の判断に当たっては実際の個別具体的事情にこのような観点から検討することが考えられます。

 もう少し場面を想定しながら検討を行うと、企業内不正行為や情報漏洩行為などが(業務用メール調査以外の手段で)既に具体的に発見・探知されていて調査方法としても合理的範囲内にある場合にはこれが許容され得る半面、例えば、不正行為や情報漏洩などの具体的問題の発生にかかわらない常時メール内容の調査・監視などは問題となる可能性があると考えられます。

 企業としては、上記のような点に注意しながら就業規則・社内規則の整備なども併せて検討し、適切な対応が求められることとなります。

※本稿は、私見を含んでおり、また、実際の取引・具体的案件などに対する助言を目的とするものではありません。実際の取引・具体的案件の実行などに際しては、必ず個別具体的事情を基に専門家への相談などを行う必要がある点にはご注意ください。

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