1 WEBサイトのM&A
現在の企業活動においてWEBサイトを利用したマーケティング、ブランディング、販売等は必須の要素となっているといえます。その中で、WEBサイトを新たに立ち上げ多くのページビューを獲得し、ビジネスにおいて効果的なレベルまで成長させるには、かなりの期間、費用、労力等が必要となります。それら期間、費用、労力等を省き、素早くビジネスに適したWEBサイトを獲得し運営するには、既存のWEBサイトを買収することが検討されます。
WEBサイトM&Aともいわれています。
数十万~数百万円という価格帯での取引が多いものと思われますが、ときには6億円をこえる価格で譲渡がなされた事例なども有名です。
2 WEBサイトM&Aの注意点
①譲渡対象の明確化
WEBサイトにはコンテンツ、登録ドメイン、運営ノウハウ、運営上の契約関係等多数の権利が関係しています。
画像、デザイン、動画、文章等について必ずしも当該WEBサイトの権利保有者が著作権を有しているわけではなく、第三者である著作者から使用許諾を得ているだけである可能性もあります。
そのような場合には、その使用許諾に関する契約・権利関係について、WEBサイトM&Aの対象として含まれているか、継続・承継されるか等の確認が必要となります。
登録ドメイン名に関する権利の譲渡の有無・可否、登録移転手続の確認も重要となります。
運営ノウハウについて引き継ぐことも想定されますが、それらが当該M&A対象とするかの確認・判断が必要となるでしょう。また、単にマニュアル書面の引継ぎのみでは実際の運営が難しいことも少なくなく、M&A実行後の一定期間の売主からの指導に関する取り決め等を明確化しても良いでしょう。
このようにWEBサイトの構成要素及び運営に必要となる要素は多く存在するため、売買時には当該譲渡契約において何がどこまで譲渡対象として含まれ、それについての価格設定である点を明確化する必要があるといえます。
②WEBサイトコンテンツの権利関係の確認
WEBサイト内の画像、動画、文章等のコンテンツについて全てWEBサイトオーナーの制作により著作権も全てWEBサイトオーナーが保有していることはむしろ少ないといえるかもしれません。
WEBサイト内のコンテンツについてWEBサイトオーナー以外の第三者の著作権等の権利が存在する場合には、当該第三者が権利を保有する画像、動画、文章などの著作物について使用許諾を得ているという状態が予測されます。
その他、それらについてウェブサイトオーナーと著作権者間で取り決めがない、曖昧な取り決めしかないという状態も実態としてはあり得ます。
そのような場合には、買主としては、WEBサイト売買の前に、売主において、それら全ての著作権等の権利の譲受や、使用許諾に関する契約を引き継ぐなど権利関係のクリーン化を行う必要があります。
③広告契約の処理
売買の対象となるようなWEBサイトにおいては、アフィリエイト等の広告収入がある場合が多く、WEBサイトのM&Aにあたっては、当該広告主又はASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)等との間の契約について適切な処理が必要となります。
それら広告関連契約は、元々は売主と広告主又はASP等との間の契約関係となりますので、買主と広告主又はASP等との間で従前同様の条件等での契約が可能であるかの確認や、移行の段取りが必要となります。
そもそもWEBサイトの売買の目的として従前の収益性の確保を重要点とする売買は多いと考えられるため、しっかりとした確認が重要となるでしょう。
④個人情報の問題
ECサイトの会員情報などウェブサイトには個人情報が含まれていることも少なくありません。ウェブサイトの売買に伴って会員情報などの個人情報の引き継ぎも求める場合には、個人情報保護法の規制にも対応する必要があります。
⑤競業避止の観点
WEBサイトのM&Aにおいて、売主は対象となるWEBサイトを制作しその事業を運用していたところですから、同じようなWEBサイトを制作し事業を運営するノウハウを持っているといえます。
このような状況の中で、WEBサイトの売買の後に、売主が売買対象となるWEBサイトと同様のWEBサイトを再度制作しその事業を運営してしまっては、買主にとって損害となり得るところでしょう。
そこで、買主としては、売主に対し、売買対象と同様のウェブサイトの制作・運営、売買対象ウェブサイトと同様の事業を行うことを禁止することが検討されます。
譲渡契約において売主に競業避止を義務付ける条項を規定するなどの対応が考えられるところです。
以上にあげた注意点の他にも、アップデートが前提とされるWEBサイトにおけるアップデートやコンテンツ作成・運営の外注関係の契約引継ぎの問題や、構成されるWEBサイトの各コンテンツとして構成されるデジタルデータについてそもそもいかなる法的権利が移転するのか等の問題など、一言にWEBサイトのM&Aといっても実は様々な法的検討の必要性があるところです。
デジタルデータに関する法的権利の性質等については以下の記事もご参照。





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